2010-01-01から1年間の記事一覧

見る影さへにくれぬ

ゆく年の惜しくもあるかなます鏡 見る影さへにくれぬと思へば 紀貫之(古今集 巻6 342) 往く年が惜しく思えます。 年のみならず、澄んだ鏡の中の私の姿もまた、暮れて(、暗くなって→年老いて)しまったような気がして。 暮れる ├get dark 暗くなる └come t…

龍安寺

11月1日。

『ユートピア老人病棟』江川晴

79歳の元眼科医、湯浅マキに軽度の認知障害が見られるようになり、病院(―というより、むしろホスピス?…はっきりとはしませんが老人ホームに近いイメージを持ちました―)に入れられることとなる。患者の一人であるマキの視線で、病院の中で様々な老人の姿…

夏と秋と

夏と秋とゆきかふ空の通ひ路はかたへ涼しき風や吹くらむ 凡河内躬恒(古今集 巻3 168)去る夏と来る秋とが行きちがう空の通路では、秋が来る片方の通路にだけ涼しい風が吹いているのだろうか。 気象庁によると、「日本の年平均気温は、長期的には100年あたり約1…

旅の丸寝の紐

草枕旅の丸寝の紐絶えば 我が手と付けろこれの針持し 椋椅部弟女(万葉集 巻20 4444)草を枕にする旅で服を着たまま寝るときに、もし着物の紐が切れたなら、 ①自分の手でつけて下さいね、この針を持って ②私の手と思い付けて下さい、この針を持って 防人に行く…

月やあらぬ

月やあらぬ春や昔の春ならぬ我が身一つはもとの身にして 業平朝臣(古今集 巻15(恋歌5)747)月は、そして春は、以前と同じで変わりない。 (しかし、そうした自然ではないのだから、人は変っていくものなのに、) 私の身一つは元通り、取り残されてしまっ…

『赤頭巾ちゃん気をつけて』庄司薫

図書館である本を探していたところ、偶々この背表紙に眼に止まり、そう言えば以前に奨められたことがあるなぁ・・・と思い、借りて読んだわけだが、何が面白いと言ってもやはりその巧みで、なおかつ軽妙な文体であり、知らぬ間にするすると(そう、実にするする…

『故郷』魯迅

(印象に残った場面とその理由) 『故郷』において、魯迅は、身分制度に対する悲しみと、将来の子供たちに対する希望をやや屈折しながらも描いたように思う。さて、今回改めて『故郷』を読んで気になったことは、ルントウが食器を灰の中に隠していたというこ…

『薬』魯迅

(印象に残った場面とその理由)『狂人日記』全体から、或いは『狂人日記』の人間の顔についての描写:「ある者はいつものように青い顔をして歯をむき出し、にやにやと笑っている。」(p22)等から、(人は本当は獰猛で、凶悪で、また狂暴な動物である)…

航跡もなし

世の中を何に譬へむ朝開き漕ぎ去にし船の跡なきごとし 沙弥満誓(万葉集 巻3 351)世の中を何に譬えよう。夜明け、海に漕ぎ出て行った船の航跡さえ残ってはいない、そんなものだろうか。 有名な歌。船は苦手であまり乗らないのだが、航跡というのは、どのく…

『孔乙己』魯迅

(印象に残った場面とその理由)『孔乙己』が、茴香豆の茴の字の書き方を訊く場面―まず「読んだことがある…それじゃわたしが試験をしてやろう。茴香豆の茴の字は、どう書くかね」と訊き、『わたし』が質問に面倒そうにも答えるとさらに熱心に「そうだそうだ…

梅の花

春の夜の闇はあやなし梅の花色こそ見えね香やはかくるる 凡河内躬恒(古今集 巻1(春上) 41) 春の夜の闇は、何を隠そうとしているのだか、わけがわからない。 梅の花は、その色こそ見えないけれども、その香は隠れたりするものか。

人にしられぬ花

三輪山をしかもかくすか春霞人にしられぬ花やさくらむ 紀貫之(古今集 巻2(春下) 94) 三輪山を、そのようにも隠すのか、春霞よ。人に知られぬ花が咲いているのだろうか。 人が全てを知っている世界というのは、きっとつまらないものではないかと思う。知…

春の園

春の園紅にほふ桃の花下照る道に出で立つ娘子 大伴家持(万葉集 巻19 4139)春の園に紅色に美しく輝いている桃の花。その樹の下、照り輝く道に出てたたずむ乙女よ。

くたに

散りぬれば後はあくたになる花を思ひ知らずもまどふてふかな 僧正遍照(古今集 巻10(物名) 435)散ってしまえばその後はごみになってしまう、「くたに」※の花。そうと理解せず、①飛び回る蝶の姿よ。 ②花に夢中になるということだ。 ※「くたに」は、植物の…

色なしと人や見るらん

色なしと人や見るらん昔よりふかき心にそめてしものを 藤原国経(古今集 巻17 869)この綾絹をあなたは色がないと見ているでしょうか。 昔からあなたを深く思っていたのですよ。

人は古りにし

物皆は新しき良しただしくも人は古りにし宜しかるべし 詠み人知らず(万葉集 巻10 1885)(一般に)物は皆、新しいのが良い。 ただし、人間は年をとって古くなった方がよいのだろう。

千代ともなげく人の子

世の中にさらぬ別れのなくもがな千代ともなげく人の子のため 業平朝臣(古今集 巻17(雑上) 901) この世の中に避けられない別れというものがなければよいのになあ。母に、千年でも生きて欲しい、と哀願する、人の子のために。 http://d.hatena.ne.jp/sea_o…

いよいよ見まくほしき君

老いぬればさらぬ別れもありといへばいよいよ見まくほしき君かな 伊登内親王(古今集 巻17(雑上) 900) もう年老いてしまったので避けられない別れも来ようかと思うと、いっそうあなたに会いたい気持ちが募ります。明日、返歌。→http://d.hatena.ne.jp/sea…

しづ心なく花の散るらん

久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらん 紀友則(古今集 巻2(春下) 84)日の光が長閑にさしている春の日に、落ち着きがないので桜は散り急ぐのだろう。 性格・適性診断テストなどで、|以下の問いについて、最も自分の考えに近いものにマークせよ…

紅と橡

紅は うつろふものそ橡の なれにし衣に なほ及かめやも 大伴家持(万葉集 巻18 4109) 紅の花の染め物というのは、綺麗でも色褪せやすいもの。橡で染めた・着馴れた衣の方が、やはりいいものよ。 浮気相手の女を紅(くれない)で染めた衣服に、都の妻を橡(…

幸くあれ

父母が頭掻き撫で幸くあれて言ひし言葉ぜ忘れかねつる 丈部稲麻呂(万葉集 巻20 4346) 別れ際に、父と母とが私の頭を撫で回して、「達者で」と仰った、 その言葉が今も忘れられないのです。 「幸くあれ」の読み。「さきくあれ」だと思っていたのだが、この…

三輪山

三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや 額田王(万葉集 巻1 18) 三輪山をそのようにも隠してしまうのですか。せめて雲にだけでも思いやる心があってほしい。雲が隠してよいものか。 667年、近江への遷都。常日頃共に暮らし、敬ってきた山…

有間皇子

磐代の浜松が枝を引き結び真幸くあらばまた遷り見む 家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る 有間皇子(万葉集 巻2 141・142) 磐代の浜の松の枝を引き結び、無事を祈る。もし願いが通じ無事であったならば、また此処に戻りこの松を見よう。 家…

石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも 志貴皇子(万葉集 巻8 1418)岩を叩いて流れ落ちる滝のほとりにある早蕨が、 芽吹き始める春になったんだなあ。 長い冬が終わり、春の足音を見つけた喜びが表現されている。

狭野のわたりに

苦しくも降りくる雨か三輪の崎狭野のわたりに家もあらなくに 長忌寸奥麿(万葉集 巻3 267) 困ったことに、雨が降ってくることだよ。三輪の崎の狭野の渡し場には、雨宿りしようとも家1軒もないのに。 小・中学校に通っていた時分の教科書等を処分しようと思…

さらさらに

多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの児のここだかなしき 東歌(万葉集 巻14 3373) 多摩川にさらさら さらす手織りの麻布ではないが、今さらながらどうしてこの娘はこんなに可愛いのだろう。 副詞「さらさら」には、改めて、ますます・いっそう等の意…

香をだにぬすめ

花の色は霞にこめて見せずとも香をだにぬすめ春の山風 良岑宗貞(僧正遍照)(古今集 巻2(春下) 91) 花の色は霞に包み隠されて、その色を見せてはくれない。 ならばせめて香りだけは盗って来い、春の山風よ。 訳しにくいが、こんなところだろうか。

あすか川

世の中は何か常なるあすか川昨日の淵ぞ今日は瀬になる 詠み人知らず(古今集 巻18(雑歌下) 933) この世に何一つとして変わってゆかないものはない。 昨日まで深い淵であったところが、今日には浅い瀬に変わる、あすか川のようなものである。 (瀬が淵にな…

防人の歌

防人に行くは誰が背と問ふ人を見るがともしさ物思ひもせず 防人の妻(万葉集 巻20 4425) 今年防人に行くのはどこの旦那かと尋ねる人を見る、この妬ましさよ。 夫をとられる私のように思い煩うこともなしに。 「羨(とも)しさ」の訳はここでは「妬ましさ」…