三輪山

三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや 額田王(万葉集 巻1 18) 三輪山をそのようにも隠してしまうのですか。せめて雲にだけでも思いやる心があってほしい。雲が隠してよいものか。 667年、近江への遷都。常日頃共に暮らし、敬ってきた山…

有間皇子

磐代の浜松が枝を引き結び真幸くあらばまた遷り見む 家にあれば笥に盛る飯を草枕旅にしあれば椎の葉に盛る 有間皇子(万葉集 巻2 141・142) 磐代の浜の松の枝を引き結び、無事を祈る。もし願いが通じ無事であったならば、また此処に戻りこの松を見よう。 家…

石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも 志貴皇子(万葉集 巻8 1418)岩を叩いて流れ落ちる滝のほとりにある早蕨が、 芽吹き始める春になったんだなあ。 長い冬が終わり、春の足音を見つけた喜びが表現されている。

狭野のわたりに

苦しくも降りくる雨か三輪の崎狭野のわたりに家もあらなくに 長忌寸奥麿(万葉集 巻3 267) 困ったことに、雨が降ってくることだよ。三輪の崎の狭野の渡し場には、雨宿りしようとも家1軒もないのに。 小・中学校に通っていた時分の教科書等を処分しようと思…

さらさらに

多摩川にさらす手作りさらさらになにぞこの児のここだかなしき 東歌(万葉集 巻14 3373) 多摩川にさらさら さらす手織りの麻布ではないが、今さらながらどうしてこの娘はこんなに可愛いのだろう。 副詞「さらさら」には、改めて、ますます・いっそう等の意…

香をだにぬすめ

花の色は霞にこめて見せずとも香をだにぬすめ春の山風 良岑宗貞(僧正遍照)(古今集 巻2(春下) 91) 花の色は霞に包み隠されて、その色を見せてはくれない。 ならばせめて香りだけは盗って来い、春の山風よ。 訳しにくいが、こんなところだろうか。

あすか川

世の中は何か常なるあすか川昨日の淵ぞ今日は瀬になる 詠み人知らず(古今集 巻18(雑歌下) 933) この世に何一つとして変わってゆかないものはない。 昨日まで深い淵であったところが、今日には浅い瀬に変わる、あすか川のようなものである。 (瀬が淵にな…

防人の歌

防人に行くは誰が背と問ふ人を見るがともしさ物思ひもせず 防人の妻(万葉集 巻20 4425) 今年防人に行くのはどこの旦那かと尋ねる人を見る、この妬ましさよ。 夫をとられる私のように思い煩うこともなしに。 「羨(とも)しさ」の訳はここでは「妬ましさ」…

大空を覆う袖

大空におほふばかりの袖もがな春咲く花を風にまかせじ 詠み人知らず(後撰集 巻2(春中) 64) 大空全体を覆うほどの袖が欲しいなぁ。そうすれば春咲く花を風の好きなようにさせないのに。 まるで子供が詠んだ歌かと思ってしまうほど、大胆で自由な歌。大空…

山+風=

季節はずれではあるが。 吹くからに秋の草木のしをるれば むべ山風をあらしといふらむ 文屋康秀(古今集 巻5(秋下) 249) 吹くや否や秋の草木が萎れてしまう、なるほどそれで山風を「あらし」というのだろう。 百人一首の中で最初に覚えた歌だったと思う。…

白玉は

万葉集から。 白玉は 人に知らえず 知らずともよし知らずとも 我し知れらば 知らずともよし 元興寺の僧(万葉集 巻6 1018) 真珠は人に知られない、しかし人が知らなくてもよい。 人が知らなくても、自分がその自分の値打ちをわかっているのならば、知らなく…