崇徳院の御位の時〜/『方丈記』

おびただしく大地震ふること侍りき。そのさま、世の常ならず。山はくづれて河を埋み、海は傾きて陸地をひたせり。土裂けて水湧き出で、巌割れて谷にまろび入る。なぎさ漕ぐ船は波に漂ひ、道行く馬は足の立ちどを惑はす。都のほとりには、在々所々、堂舎塔廟、一つとして全からず。或いはくづれ、あるいは倒れぬ。塵灰たちのぼりて、盛りなる煙のごとし。地の動き、家の破るる音、雷に異ならず。家の内に居れば、たちまちにひしげなむとす。走り出づれば、地割れ裂く。羽なければ、空をも飛ぶべからず。竜ならばや、雲にも乗らむ。恐れのなかに恐るべかりけるは、ただ地震なりけりとこそ覚えはべりしか。

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すなはちは、人皆あぢきなきことを述べて、いささか心の濁りも薄らぐと見えしかど、月日重なり、年経にし後は、言葉にかけて言ひ出づる人だになし。


地震は“ない(なゐ)”とのこと。1行目、「おおないうる」。